サイエンスでキャリアを築くために: 米国で学んだこと

外山 玲子 Reiko Toyama, Ph.D. (NIH / NICHD)

【要旨】 最近はアメリカで独立して研究室を運営している日本人も数多い。ポスドクとして渡米する人ばかりでなく、大学院生や学部生としてアメリカでチャンスを狙う人も少なくない。医学研究は国境に囚われない活動である。より良い研究者になるために自らを高める事ができ、科学の進歩に貢献することが可能であるならば、その活動場所は限られるものではない。そんな思いで医学生物学研究のキャリアの大半をNIHで過ごした演者の経験と現在のプログラムディレクターとしての立場から、これからアメリカでキャリアを築くことを志す若手にエールを送りたい。具体的には、研究者として必ず何らかの形で関わるであろうNIHの全体像をわかりやすく解説、キャリアを築く過程で参考になる情報提供、また最近話題になっている大学や研究機関以外でのキャリアの可能性にも触れる。ポスドクや若手研究者のみでなく大学生や高校生にも参考になる内容も盛り込む予定である。

【略歴】 東京大学理学系研究科生物科学課程修了。実際には東京大学医科学研究所上代淑人(かじろよしと)先生の研究室で生化学を学び学位を取得。 NIH へポスドク(Visiting fellow)として渡米後、発生学へ転向。NIHで最初のzebrafishのシステム立ち上げに携わり、NIH初のzebrafishをモデルシステムとした研究論文を発表。NIH/NICHD staff scientist としてラボの運営に携わった後、NICHD Program Directorとして発生生物学(特にanimal model system、organogenesis, structural birth defects)の発展に力を注ぐ。次世代の若手研究者、とりわけ女性研究者、マイノリティー研究者のサポート、日米間の生命医学研究の交流支援に多大な興味がある。

Reiko Toyama, Ph.D.   National Institute of Child Health and Human Development  National Institutes of Health (NIH)    website→

Reiko Toyama, Ph.D.

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肝臓移植における病理医の役割

大島 喜世子 Kiyoko Oshima, MD., Ph.D. (Johns Hopkins University School of Medicine)

【要旨】私は病理医です。というと、何の研究をなされているのですか?とよく質問されます。アメリカでは、病理学は臨床医学であり、病理医は臨床チームの一員です。重要な治療方針を決定するうえで、病理診断は外科医、内科医に重要な指針を与え,尊重されます。病理医は研究もしますが、医師免許が必要な臨床医です。 肝臓移植は、肝硬変や急性肝不全等を患った小児、ならびに成人の救命を可能とする高度医療にあたります。たとえば、脳死ドナーの肝臓に肉眼異常所見がみられ、外科医が移植に使用可能かどうかの判断に迷った時、顕微鏡で肝臓の状態を調べ、外科医の判断に有用な情報を提供するのが病理医です。移植後の血液検査で肝機能障害が見られた際、拒絶か肝炎など原疾患の再発かによって治療方針は全く異なります。その確定診断をしばしば行うのも病理医です。自分の病理診断に基づき治療方針が決定、施行され、病状の改善が見られた時には、病理医としてのやりがいと喜びを感じます。患者様に直接会う事はありませんが、舞台裏で肝臓移植の成功を支援している病理医の役割を紹介致します。

【略歴】1983年東京慈恵会医科大学医学部卒業、慈恵医大外科に入局。1991年に渡米。ハーバード大学ダナファーバー癌研究所ポスドク着任。その後US Medical Licenseを取得して、2000年にイリノイ大学シカゴ校病理研修終了。17年にわたり、米国の複数の医学校にて、外科病理医として消化器の病理診断と研究、ならびに研修医、医学生の教育に従事。2017年、ジョンズホプキンス大学臨床肝臓病理主任に就任。

Kiyoko Oshima, MD., Ph.D.   Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Pathology    website→

Kiyoko Oshima, MD., Ph.D.

Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Pathology

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医療リソースとしての肝臓移植

浅井 章博 Akihiro Asai, MD., Ph.D. (Cincinnati Children's Hospital Medical Center)

【要旨】もしも、家族もしくは自分が脳死と診断された時、臓器移植提供に同意しますか?と聞かれたことはあると思います。では、“臓器提供に反対の場合、将来 あなたか、あなたの子供が移植医療を受けられませんがいいですか?”と聞かれたらどう答えますか?肝臓が病気になり、治療法が尽きた時、命を救うには肝臓移植しかありません。現代の肝臓移植技術を使えば、95%の成功が期待されます。米国では毎年、600人の子供が肝臓移植を受けています。しかし、脳死臓器ドナーの数が絶対的に足りないために、Waiting listに2年待機していても移植を受けられる人は半分にすぎません。現在、大人も含めると13000人がWaiting list に待機していますが、移植を受けられるまで平均2-3年間待たなければいけません。肝臓の病気はその間も進行を続けるので、病苦は重くなる一方です。脳死臓器ドナーの数が足りないのは明らかです。ドナーの数を増やすためにはどうしたらいいのか? 日々、肝臓移植医療に携わる医師として、この問題を考えてきました。個人の宗教観や死に臨む価値観が大きなファクターであることは間違いないと思います。しかし、脳死移植が始まって40年が経ち、人々の価値観は昔に比べて大きく変わりましたが、ドナー数は足りていません。新しい観点からこの問題をとらえる必要があると考えます。移植のWaiting listで病気に苦しみながら待っている患者さんとその家族を診ていると、この膠着状態を打破するには、少々常識から外れるような発想が必要だと思います。脳死臓器提供をしたくないと意思表示する人は、同時に、自分とその家族に移植が必要になった時に、移植を受ける権利も放棄する制度にしてはどうかと提案します。実はあまり知られていませんが、癌などの誰でもかかる病気でも、移植によって治療できるようになってきているのです。ですから、現代の医療経済の観点からいえば、脳死臓器は医療リソースと位置付けられるようになっているのです。リソースは社会でシェアするもののはず。今回のフォーラムでは、社会全体が移植医療を自分のことだと考えるパラダイムシフトについて、多分野の専門家とのディスカッションを期待します。

【略歴】名古屋大学医学部卒業後すぐにボストンで基礎研究。NYベスイスラエル病院にて一般小児科の研修を始め、2年目からコロンビア大学小児科に移り2010年小児科レジデント修了。シカゴのノースウェスタン大の小児消化器・肝臓移植科にて専門医修了。シンシナティ小児病院で小児肝臓病 移植内科専門課程修了。現在シンシナティ小児病院にてPhysician-scientistとして臨床と研究を両立。

Akihiro Asai, MD., Ph.D.   1) Division of Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition. Cincinnati Children's Hospital Medical Center.  2) Dept of Pediatrics, University of Cincinnati    Website→

Akihiro Asai, MD., Ph.D.

1) Division of Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition. Cincinnati Children's Hospital Medical Center.

2) Dept of Pediatrics, University of Cincinnati

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肝移植と周術期管理

別城 悠樹 Yuki Bekki, MD., Ph.D. (The Mount Sinai Hospital)

【略歴】
2010年3月 九州大学医学部 卒業
2010年4月 沖縄県立中部病院 (研修医)
2012年4月 九州大学医学部 (博士課程)
2016年4月 福岡市民病院 (医員)
2018年7月 米国マウントサイナイ病院移植外科 (臨床フェロー)

【学会専門医など】日本外科学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化器病学会専門医、米国ニューヨーク州医師免許

Yuki bekki, Md., Ph.D.   Clinical Fellow, Transplant Surgery Fellowship, The Mount Sinai Hospital

Yuki bekki, Md., Ph.D.

Clinical Fellow, Transplant Surgery Fellowship, The Mount Sinai Hospital


日本の科学国家戦略アップデート - 平成を総括し、次の時代に向けて -

成田 公明 Kimiaki Narita (Japan Biological Informatics Consortium)

【要旨】2019年5月1日から新たに〇〇時代を迎えることになるが、今後の科学技術の動向を占う上で日本人ノーベル賞受賞者18人を輩出した平成時代を振り返り、政府、アカデミア、企業等の果たした役割を分析することは重要。昨年日本経済新聞とオランダのエルゼビア社が論文数、閲覧数等を基に共同で行った調査において先端技術研究30分野のうち中国が23分野でトップになったことは各方面に衝撃を与えた。バイオ・医療分野では中国が台頭する中で米国の優位は揺るがないものの、英国、EUはBrexit後の混乱が予想される。ヘルスケアについては、トランプ大統領の一般教書演説、安倍総理大臣の施政方針演説においても触れられる等政治的イシューとなっている。特に高齢化社会の中でNIH、AMEDともに認知症関連の予算が増額されている。iPS細胞による再生医療については我が国では相変わらず期待が高いが、最近は安全性に配慮して慎重に進めるべきであるというマスコミの論調も増えている。国立大学の運営費交付金については最近は減額ではなく、横這いとなっており、本年度からは特に若手研究者を優遇する措置が盛り込まれる等政府も基礎研究充実の声に応えている。バイオベンチャーに対する民間の投資も水準は低いものの増加している。今後中国が論文レベルではなく産業レベルで競争力を強化していくことが予想され、現在の米中通商問題は正に先端技術をめぐる覇権争いそのものである。我が国はそれなりの人口、経済規模をもつため各分野でガラパゴス化現象がみられるが、特にライフサイエンス分野においては一層の国際共同研究、アライアンスが不可欠である。

【略歴】
昭和50年 3月 東京大学法学部卒業
       4月 通商産業省入省      
       エネルギー、環境、流通、原子力、地域開発、消費者行政、
       技術開発、産業保安、経済政策等に携わる。
平成18年 4月 一般社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム (JBIC) 専務理事
      ライフサイエンス分野では稀な文系出身人間

Kimiaki Narita    Japan Biological Informatics Consortium

Kimiaki Narita

Japan Biological Informatics Consortium


国連保健外交の現場からーUHC:日本の挑戦

江副 聡 Satoshi Ezoe, MD., MPH., MPA., PhD.

国際連合日本政府代表部

【要旨、略歴】当日配布予定の冊子をご参照ください。

Satoshi Ezoe, MD., MPH., MPA., PhD.

Satoshi Ezoe, MD., MPH., MPA., PhD.


知っておきたい医療と特許制度の深い関係

柳澤 智也 Tomoya Yanagisawa (JETRO New York)

【要旨】医療、特に医薬と特許制度は互いに切っても切れない深い関係にある。新薬を創る創薬メーカーにとっては、新薬の研究開発に投じた莫大な資金を回収し、次なる研究開発に投資するために、特許を取得して新薬を独占的に販売する期間を確保することが生命線となる。また、ジェネリック医薬品を創るジェネリックメーカーにとっても、新薬メーカーの特許が切れるタイミングが、ジェネリック医薬品を市場に投入するタイミングとなるため、特許制度が事業戦略上極めて大きな意味を持ってくる。政策面でも、医療と特許制度に関する問題は最も難しい問題の一つであり、政策立案者は、医療業界の研究開発・イノベーションを促進するために特許によって研究開発成果を強力に保護すべきだという主張と、消費者がより安価に医薬を購入できる環境を構築するために、特許権による保護を少し弱めてジェネリック医薬品の市場投入を促進すべきだという主張とのバランスを考慮した、絶妙な制度設計を行うことを求められている。講演では、特許制度とはどういうものなのかを簡単に解説したうえで、医療分野における特許制度の重要性について、具体的な事例や他の産業との比較を交えつつ説明したい。また、米国の現政権の特許政策が医療業界に及ぼす影響についても簡単にお話ししたい。

【略歴】1998年、東京大学工学部卒業。同年、通商産業省(現経済産業省)特許庁入庁。特許庁にて、光学機器に関する特許審査、特許法改正、特許審査政策の立案などを担当。2008年から2010年にかけて、OECD(経済協力開発機構)科学技術産業局エコノミストとして、OECD Innovation Strategy策定業務を担当。また、2012年から2013年にかけて、内閣官房知的財産戦略推進事務局(現内閣府知的財産戦略推進事務局)参事官補佐として、知的財産政策の基本方針、知的財産政策ビジョン、知的財産推進計画2013の草案を作成。2016年、特許庁審査企画室長として特許の国際協力政策を担当した後、2017年より現職に就任。

Tomoya Yanagisawa   1) 特許庁 米国知財アタッシェ  2) JETROニューヨーク事務所 知的財産部長  3) 知的財産研究所 ワシントン事務所長    website→

Tomoya Yanagisawa

1) 特許庁 米国知財アタッシェ

2) JETROニューヨーク事務所 知的財産部長

3) 知的財産研究所 ワシントン事務所長

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脳を“視る”ことで分かる“心” ―2光子イメージング法を用いた神経回路動態の計測―

寺田 慧 Satoshi Terada, Ph.D. (Columbia University)

【要旨】見たり、聞いたり、泣いたり、笑ったり、そして時には、それらを思い出して懐かしんだり、こうした精神的な営みを私たちは“心”と呼ぶ。神経科学では、こうした心的機能は脳という臓器によって形成されると考え、脳神経細胞(ニューロン)とそれらのネットワーク(神経回路)を対象に様々な研究が行われている。具体的には、脳の中に一体どのような回路構造が存在していて、それらの神経回路がどのように動作することで私たちの知覚や記憶を生み出すのかを解明する試みである。さらに、精神疾患や神経変性疾患において、これらの神経回路がどのように障害されるのか、どのようにして改善することができるのかという、病理機序解明と治療法開発も目指している。私の所属する研究室では、in vivo 2光子励起カルシウムイメージング法を用いて、海馬という脳部位の神経回路と記憶機能の関係を研究している。この技術は、2光子顕微鏡を用いて、ニューロンの活動電位時に生じる細胞内のカルシウムイオンの濃度上昇を蛍光変化として計測する方法である。これによって、動物が実際に行動している時に彼らの脳内で何が起こっているのかを可視化することができるようになった。本講演では、まず、神経心理学的症例を挙げて、海馬や前頭葉といった、ある脳部位が損傷してしまうと人格にどのような変化が起こるのかを紹介していく。それから自身の研究成果をもとに、最新の脳イメージング技術によって可視化された海馬のニューロンが細胞の種類ごとにいかに神経回路上の振る舞いが異なるかを解説する。

【略歴】脳神経科学者、行動心理学者。2011年福岡大学人文学部教育臨床心理学学科卒、京都大学文学研究科心理学専修修士終了後、同大学博士課程進学、理化学研究所脳神経科学研究センターに出向する。2016年に博士号取得後、同研究所にて研究員として働く。2018年より、コロンビア大学にて、記憶機能の神経回路メカニズムに関する研究を行っている。専門技術は、特殊電極を用いた大規模細胞外記録法、2光子顕微鏡を用いた生体マウス脳イメージング法、大規模データ解析など。

Satoshi Terada, Ph.D.   Attila Losonczy Lab, the Mortimer Zuckerman Mind Brain and Behavior Institute at Columbia University    website→

Satoshi Terada, Ph.D.

Attila Losonczy Lab, the Mortimer Zuckerman Mind Brain and Behavior Institute at Columbia University

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「合成生物学」の挑戦 ―“イジって”わかる細胞と生命―

中村 秀樹 Hideki Nakamura, Ph.D. (Johns Hopkins University School of Medicine)

【要旨】人間の身体は、37兆個ともいわれる細胞で構成されています。わたしたちの健康は、これらの細胞がそれぞれの役割を果たすことで維持されているのです。逆にいえば、一部の細胞が正常にその役割を果たせなくなることこそが「病気」であり、これらの細胞の機能を取り戻せば病気を「治療」することができる、と考えられます。現代医学は、細胞の重要な構成要素であるタンパク質に注目して、病気のときに働き方の変わるタンパク質を探し、これらを標的として治療薬を開発してきました。細胞機能の変化の原因を個々のタンパク質(分子)の機能変化に求め、これらのタンパク質の機能を復旧する薬を探す、という方法です。これらの薬は「分子標的薬」と呼ばれ、現代医学の爆発的な発展において中心的な役割を担ってきました。しかしながら、これら分子標的薬をもってしても治療の難しい病気はまだ数多く存在します。そこで私は、個々のタンパク質分子の機能を操作する、という従来の方法とは根本的に異なるやり方で、細胞のもつさまざまな機能を操作する技術の開発を目指しています。個々のタンパク質ではなく、細胞内での分布や集まり方など、細胞内の「秩序」を標的にする、というのがその戦略です。将来的にはそれらの技術を用いて、従来の分子標的薬とはまったく違う方法で失われた細胞の機能を回復し、病気を治療することが可能になると考えています。その第一歩として、細胞内部の構造を“つくる”技術と“こわす”技術の開発に取り組みましたので、現段階での成果をご報告いたします。これらの技術のもつ将来性、さらに、細胞を「つくる」または「操作する」(≈イジる)ことで生命を理解することを目指す『合成生物学』分野全体の将来的な展望についてもできる限り広くお話ししたいと思います。

【略歴】
2006    東京大学理学系研究科物理学専攻博士後期課程 修了
2006-2011  独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター 研究員
2011-2014  早稲田大学理工学術院生命医科学専攻 助教
2014-    ジョンズ・ホプキンス大学医学部 ポスドク研究員

【研究分野】蛍光顕微鏡を用いたライブセルイメージング、および合成生物学分野におけるタンパク質・細胞制御技術開発。とくにタンパク質の細胞内での拡散・輸送をはじめとする細胞内の物理現象に焦点を当てて研究を展開している。

Hideki Nakamura, Ph.D.   1) Dept. of Cell Biology, Johns Hopkins University School of Medicine  2) Center for Cell Dynamics, Johns Hopkins University School of Medicine    website→

Hideki Nakamura, Ph.D.

1) Dept. of Cell Biology, Johns Hopkins University School of Medicine

2) Center for Cell Dynamics, Johns Hopkins University School of Medicine

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ナノスケールで観るゲノムDNAの姿

佐々木 浩 Hiroshi Sasaki, Ph.D. (Harvard University)

【要旨】直径およそ30マイクロメートルしかないヒト細胞核には、すべてつなぎ合わせると2メートルにもなる染色体DNA、すなわちヒトゲノムが詰まっています。こんなにも長いDNAは、いったいどのようにして小さな細胞核の中に入っているのでしょうか? ゲノムDNAの3次元構造は、現代生物学のホットトピックとなっています。ゲノムDNAがもつ塩基配列だけでなく、いままで見過ごされてきたDNAの立体配置や折り畳まれ方が、DNA複製や修復、RNA転写といった基本的な細胞機能の制御を担い、正常な細胞機能の進行や疾患の発生原因として重要な役割を果たしていることが明らかとなってきたからです。その一方で、さらなる理解のためには、1個の細胞核の中に詰まっているDNAの姿を詳細に捉える必要があります。しかし、通常の光学顕微鏡や電子顕微鏡では、技術的な制約から、1細胞の中での姿を直接観察することができませんでした。いま私は、ゲノムDNAの姿をナノスケールかつ3次元で観る顕微鏡技術の開発と、その技術を使って実際の生物学問題を解くための研究に取り組んでいます。この講演では、私の研究の紹介を通して、新しい観察技術が拓く生物学の未来についてお話しします。

【略歴】生物学者。博士(理学)。主な研究領域は、超解像顕微鏡法、1分子生物物理学、生化学、染色体生物学、RNA生物学。東京大学理学部、同大学院理学系研究科にて構造生物学を学び、2011年に学位を取得。東京大学分子細胞生物学研究所(泊幸秀研究室)助教を勤めたのち、2015年よりハーバード大学ヴィース研究所Peng Yin研究室博士研究員、上原生命科学記念財団ポストドクトラルフェロー(2017年まで)。現在はDNAナノテクノロジーを利用した間期染色体の3次元多色超解像観察法の開発と生物学応用に取り組む。また研究の傍ら、サイエンス・ライターとしても活動している。近著に「THE BIOLOGY BIG BANG!——WIREDの未来生物学講座」「THE RISE OF DNA HACKERS」(ともに『WIRED』日本版掲載)など。

Hiroshi Sasaki, Ph.D.   1) Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering, Harvard University  2) Dept. of Systems Biology, Harvard Medical School    website→

Hiroshi Sasaki, Ph.D.

1) Wyss Institute for Biologically Inspired Engineering, Harvard University

2) Dept. of Systems Biology, Harvard Medical School

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